Blog・News再治療について 〜噛み合わせや根管治療は難しい〜
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初診の患者さんによく言われることです。
1、「一番奥の歯を治療したけど咬み合わせが変わって、反対で咬めなくなった」
2、「左右両方の奥歯にセラミックを入れたら上手く咬めなくなった」
3、「歯を入れた所だけ咬むと痛い」
4、「何回も同じ所だけが外れる」
これをご覧になっている多くの皆さんには、これらの症状がほとんど同じように思えるかもしれません。
歯科医院におけるこれらの訴えは当院でなくてもよくあることで、
歯科医師はこれらの不快症状や主訴とすることが何が原因か、
診断することはできます。
しかし「再治療(リトリートメント)」をして改善させ、不快症状を失くすことができるか、
それはその医院ごとの取り組みによって違ってくることも多いと考えます。
その理由を説明していきましょう。
まず、当院においても「早期の再治療」に至った場合は、保険請求がほとんどできないため、
医院収入としてもマイナスになってしまいます。
ですから、最初から丁寧に良い形で「治療」を終わらせることを目標にします。
環境保全を行い、未来に継続させることを環境用語で「持続可能性 Sustainability」と言いますが、
私はこの考えは歯科においても適用され、大切なことだと考えています。
特に在宅、訪問歯科診療に行くようになってから、このように思うようになりました。
「いかにその人の良い状態を持続させるか」
歯科における「持続可能性 Sustainability」は大切なことで、
歯科医師も経営や目先の診療報酬のことだけ考えていると、結局は悪い形で自分に返ってきます。
適度にやり直しをしていくという考え方も実際にはあることと思いますが、
できれば自分が関わった方々のお口の中は長く持たせたい所です。
またその時のベストと思える治療がずっと存続する治療とは限りません。
これは大学病院の研修医時代に言われたことです。
口腔内は継続して管理を行い、診ていかなければならないのです。
さて、本題に戻りましょう。
最初に述べた主訴を少しずつ紐解いていきましょう。
1、「一番奥の歯を治療したけど咬み合わせが変わって、反対で咬めなくなった」
これは今回のブログタイトルにも持ってきていますが、
最後臼歯に入れた金属の冠(全部鋳造冠FMC)やセラミックなど咬み合わせが高くなった場合です。
「いやいや、だって冠の調整はちゃんとされていましたし、大丈夫と思いました」
その調整は、水平位(横になって治療を受けている姿勢)で調整した後に、座位(座って起きている状態)で
確認しましたか?
水平位では重力で下顎が1mm程度は沈下します。人によってはもっとするでしょう。
ですから、噛み締めようとした時に、口の中の歯が全部カッチリと接触しようとする前に、
コンマ何mm早く咬合接触してしまうこともあります。(早期接触)
起きた状態で確認しないといけません。
ちなみに私は人によっては予め下顎の沈下量を見て、下顎の動き・運動の予測して歯に被せる冠の調整をすることもあります。
特に最後臼歯である第二大臼歯は説によっては噛み合わせの力の50%が加わるということも言われています。
早期接触が起こっていた場合は、咬む運動の妨げ、違和感や痛みに変わってきます。
治療したはずなのに、上記の症状が出る場合は再調整、再治療の必要性があります。
2、「左右両方の奥歯にセラミックを入れたら上手く咬めなくなった」
これも1、に似ています。また、自由診療でセラミックを即日に近い形で入れる治療で起こりやすいようです。
私は自分自身がCEREC(セレック)という削り出しの機械で設計と加工を行っていましたので、よくわかります。
(今はセラミックはラボに任せています)
歯科医院は患者さんと契約を結び、早くセラミックの歯を入れてあげたいのですが、
これらのトラブルは余裕がないタイトスケジュールで患者さん固有の咬合を見落としてしまう場合に起こります。
特にセラミックは保険診療の金属と違い、
クリアランスと言って、材料に適した「厚み」が必要になります。
これらに目が届かず、急いて安易にセラミックを作製した場合は
2、のようなトラブルが起きやすくなります。
施術者、患者ともに早く治療を終わらせたいという心理は働きますが、
丁寧に治療をしていかなければいけません。
自分の口の中を100均やディスカウントショップで安い既製品を見つけて「得をした」ような感覚と同じような感覚で選択すべきではないでしょう。オールセラミックやその他の冠は大量生産のそれらとは全く異なるものです。
当院のような歯科医院でオールセラミックの価格が高くなるのは、
セラミックのものだけの価格ではなく、診断諸経費と回数がかかることによります。(咬合診査の項を参照ください)
1)時間をかけて丁寧に歯の「形成」・「印象」を行い、
2)「咬合」の確認を行い、(場合によっては咬合診査)
3)完全に焼成(焼いて完成させること)する前に70%の焼成状態で「試適Try-in」や
口腔内写真撮影による色調(シェード)の確認を行い、
4)最終確認を行いセットする。
実際に奥歯を入れたために「前歯の咬み合わせが空いてしまっている」状態になることもあるのです。
個人的な考えとしては、患者さんが意図する所とは違うかもしれませんが、
保険診療、自由診療に関わらず、ゆっくりでも丁寧にしっかりと終わらせることが
長持ちの秘訣と考えています。
〜ゆっくり、はやく〜
「僕はね、絶対にオペを急いでやらないの」
(患者さんに)「丁寧にやりますから」
(インタビュアーに)「(手術の跡が)一生残っちゃうんだよ?」
NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」で順天堂大学の小児外科医である山高先生の言葉です。
その場しのぎの治療ではなく、予めコンセプトと対策を持って患者さんのオペに臨み、
「ゆっくり」でも「確実」に進ませることが、結果的に「正確」に「早く」オペを終わらせ、
患者さんに良い予知性(予後)をもたらします。
私のような凡人の歯科医師には高度な外科手術のような域のレベルに達することはないのでしょうが、
しっかりと臨んでいきたいとは思います。
また当院では綿密なアポイントスケジュールを組んで管理し、
既存患者さんの治療を確実に進ませることと同時に、
新しい患者さんをできるだけお待たせすることなく、受け入れることに配慮する医院作りに取り組んでいます。
3、「歯を入れた所だけ咬むと痛い」
これも不完全な歯科治療の場合があります。
むし歯を取っていても、歯の病気の経過が長かったため痛みが出てしまったり、
また、根管治療という、歯の神経(歯髄)を取った後の治療が不完全であったりします。
特に歯髄が入っていた管である、歯の中の「根管」は複雑な形で存在し、
当院ではマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)で確認することができますが、
予後不良の歯には汚染したモノが歯の中に残っていることもしばしばあります。
汚染したモノは取り切れなかった歯髄など壊死したタンパク質や、
以前に治療が終わり、充塡されていたガッタパーチャというゴムやワックスのものであったりします。
これらの汚染したモノは「起炎物質」と呼ばれ、歯根の先で病変を作ってしまったり、
密閉ができていない、不十分な歯の閉鎖は微少漏洩(マイクロ・リーケージ)を起こし、
病変の原因菌が歯根の先まで到達するスペース・経路を作ってしまいます。
唾液や皮脂油の付いた手で作った綿栓(薬を染み込ませた綿の栓)を根管の中に入れたり、
唾液により細菌そのもの、呼気中の細菌が根管の中に侵入して感染しまった場合は
一度、痛みを取る治療を終えたとしても、細菌を原因とし、炎症や化膿性病変を引き起こします。
その結果、冠を被せたとしても再治療を始めなければいけません。
先の話の通り、最初から確実に治療をすることが大切になってきます。
4、「何回も同じ所だけが外れる」
これは1、や2、のような原因に加え、患者さんご自身の咬み合わせ(咬合・こうごう)にも起因する場合もあります。
咬み合わせの条件をクリアしていることはとても大切です。
*食いしばりや歯ぎしり、TCHを行っている場合は保険診療で歯ぎしり防止のマウスピースである「ナイトガード」を使用していただくのですが、使用してもらえなかったり、自身が行っている食いしばりを認めてもらえない場合もあります。
最近では保険診療においても、CAD/CAM冠といって以前より少し強く白い材質の冠が被せられるようになってきました。
しかし、これは咬み合わせ強い人にセットしたり、
(特に咬みながら下顎を横に動かした時に、歯が部分的に強く当たってしまう、など)
患者さんご自身が「白い冠」にこだわり希望されたり、
不利な条件があるにも関わらず冠をセットした結果、咬む力に耐えられず、早期の冠の脱離や破折を起こしてしまいます。
このCAD/CAM冠はプラスティック(レジン)も入っているので、保険診療の金属の冠と比較して、
材質として少し弱く、「たわみやすい」特徴があります。
CAD/CAM冠をセットすることについてはほとんど大丈夫の方が多いようです。
しかしながら、何パーセントかの方々はメーカー規定のセメントを使用しているにもかかわらず、
脱離や破折、またセメントの剥離を起こしてしまします。
患者さんが自由診療までの予算はなくて、白い冠を望む場合に、咬合力の診断もそこそこに人情として、
CAD/CAM冠を選択することもあります。(人間だもの。)
しかし、結果的に早期の再治療に至ってしまうことが考えられるのであれば、
金属の冠をセットすることになり、多少、審美性を失うことになっても、最初から考えられる強度があり長持ちをするベストの治療を行うことと、
審美性やその他の利得のため、もしセラミックなどの自由診療を今はできなくても、今後も歯が存続するのであれば、自由診療の冠を被せ治すことは後からでも行うことは可能です。
ですから、患者の皆様におかれましては、歯科治療を早く終わらせることに焦らず、
やり直しの再治療が出にくい形で、移行的に考えていただければと存じます。